「“なぜか送ってしまい今は激しく後悔”──静かに進行するネット性加害の手口」
かつて性被害というと、直接的な暴力や接触が伴うものだと考えられてきました。ですが、今、性加害はスマートフォン一つで成立してしまいます。触られるわけでもなく、傷跡もなく、それでも確実に心を蝕む──それがネット上の性被害です。
たとえばSNSのDMやチャット。最初は日常的な会話から始まります。趣味の話、仕事の話。相手はやたら褒めてきてとても話しやすく、「信頼できそう」と思わせてきます。それがある日、「上半身だけでいいから顔も入れて裸の写真送ってほしい」と唐突に要求してきたりします。
ここで断ろうとすると、微妙なプレッシャーをかけてくるのです。「冗談だよ」「引かないでね」「前の彼女は見せてくれたけどな」──といったように直接的ではないが、どこか人の弱さを突いてきます。そこでなぜか反射的に「嫌だ」とは言えない空気が生まれるのです。
最終的には、自らの選択で写真を送ったように見えてしまいます。ですが、その行動の背景には、関係性や空気感、恐れ、そして“無言の圧力”があるのです。
これは実は「自分で選んだ」のではなく、本当は「選ばされた」に近いのです。
こうした手口は、心理学では“グルーミング”と呼ばれます。
相手との距離を縮め、信頼関係を築いてから、じわじわと境界線を侵していき、急に下品な要求をしてくるわけではなく、あくまで“自然な流れ”を装うため、とても気づきにくいのです。むしろ、被害者の側が「私が変に深読みしてるだけかも」となぜか自分を責めることすらあるのです。
加えて、その写真ややり取りが流出するリスクもあります。晒される、脅される、「言うこと聞かなきゃ」──そこに明確な暴力はないかもしれないけれど、リアクションをコントロールされているという意味では、完全な“支配”となります。
「でも送ったのは自分でしょ?」と他者から責められてしまうこともあるでしょう。傍目にはたしかにそうなることでしょう。
しかし、そこで必要なのは「形式」ではなく「文脈」の理解なのです。
“自発的に見える”行動の裏に、どれだけの葛藤や圧力があったのでしょうか?
それを無視して「同意があった」と言うのは、相手の意思を軽視する態度に他なりません。
ネット性加害のやっかいな点は、“事件になりにくい”ことでもあります。暴行も脅迫もない、証拠はあるようで文脈までは記録されていません。そして何より、被害者の中に「これは被害なのだろうか?」というモヤッとした迷いが生まれやすいところも特徴です。
これは加害の“巧妙さ”でもあるのです。露骨であれば人は拒否できますが、やんわりと、優しさや恋愛感情のようなものに包んで差し出されると、人は自分の違和感にフタをしてしまうことがあるのです。
さらに、ネットという環境がその“あいまいさ”を後押しするのです。「画面の向こうの誰か」は、本当にそこにいる誰か、とは想像しづらいのです。だからこそ、加害者もまた加害に対して認識が甘い部分もあります。
「ちょっと調子に乗っただけ」
「向こうも嫌がってなかった」
「だって送ってきたのはあっちでしょ?」
これらの言葉は、加害者の認知の歪みを象徴しています。自分の行為がどんな心理的圧力を与えていたかを省みず、結果だけを見て「問題ない」と思ってしまうのです。だがその結果、被害者が長く自責に苦しむことがあるのです。
私のもとに寄せられる相談の中には、「断れない空気感だった」「恋愛感情も薄くあったので断れなかった」「言われるままに写真を送ったあと、ひどく落ち込んだ」といった声があります。
いずれも、“YES”を言わされた結果であって、心の中ではNOだったのでしょう。ですが、その場ではなぜか相手のペースに飲み込まれてしまったという…
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ネットの性被害、どう捉えたらいいのか?
被害を受けたと感じたなら、まずは「それはおかしい」と思っていいのです。相手がどんな言葉を使っていても、あなたの気持ちが“嫌だった”なら、それがすべてなのです。
そして、「嫌だ」「やめて」と言えなかったことで自分を責めないでほしいのです。言えなかったのは、あなたが弱かったからではなく言えないように仕組まれていたからだからです。
ちょっとこれは擁護するのは苦しいですが、あくまで個人的な楽しみで悪意があったわけではない人が、こういった性被害の加害者にならないためにできることもあります。
自分の言動が、相手にとってプレッシャーになっていないか。断りにくい雰囲気を作っていないか、支配していないか。たとえ相手が表面上OKと言っても、それが“NOの言えないYES”ではないか──立ち止まって考えることは、誰にでもできます。
ネットを通じての性被害・性加害は軽く扱われるべきトピックではありません。
【性被害・ネット性被害に関する相談窓口】
■ 性暴力に関する全国共通ダイヤル「#8891(はやくワンストップ)」
・電話番号:#8891(携帯・スマホから全国共通)
・受付時間:都道府県によって異なる(各地域のワンストップ支援センターにつながります)
・対象:性暴力被害を受けた人(年齢・性別問わず)
・Web:https://www.nwsnet.or.jp/center/
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