――映画『PERFECT DAYS』を観て
あるクライアントさんとのセッションの中で、
「パーフェクトデイズ」という映画の話題が出た。
タイトルは、なんとなく記憶にあったのですが、
正直、見たような、見ていないような、曖昧な記憶でした。
ずっと気になっていたので、探していたらしっかりアマプラにありました。
2023年、ヴィム・ベンダース監督作品。
ヴィム・ベンダースといえばニュー・ジャーマン・シネマの巨匠。
若いころに観た、「パリ、テキサス」(1984)には、じんわりと感動したのはもちろんのこと、
息をのむような美しさのナスターシャ・キンスキーが着ていた、
フクシャピンクのモヘアニットが印象的で、ファッションに敏感だった当時、
似たようなニットを探し回ったことを思い出しました。
圧倒的な映像美が語るもの
この映画は、いわゆるミニシアター系の、抑揚のない「静かな映画」と言われる部類に入るのかもしれません。
ゆっくりとストーリーは進行しますが、どこを切り取っても絵になるような、
侘び寂び的ではあるけれど、味わいのあるカメラワーク、
どこか昭和レトロな1:33:1(4:3)の画面サイズ。
その一つ一つの配慮が織りなす独特な映像美。
木漏れ日に映し出される植物の影。
朝のなにげないルーティンのディテール。
変わりゆく都会のスタイリッシュなトイレと、対照的で普遍的な木々の緑のコントラスト。
こんなに静かなのになぜかグイグイと引き込まれてしまう。
これは、きっと人生いろいろあった人が見るほど感銘を受けてしまうことだろうと感じました。
渋谷のトイレ清掃員・平山の日常
主人公・平山(役所広司)は、渋谷の公共トイレ清掃員として働いている。
毎朝同じ時間に起き、
同じ道を歩き、
同じ仕事を淡々とこなす。
仕事の行き帰りにはカセットテープでオールド・スクールの音楽を聴き、
浅草の地下街やスナックで晩酌をし、銭湯やコインランドリーに通う。
部屋では植物を育て、静かに本を読む。
一見すると、単調な毎日の繰り返しに見える。
けれど平凡な毎日を噛みしめるような彼の生活は、決して空虚には映らない。
むしろ、ひとつひとつの行為に、確かな意味が宿っているように感じられるのです。
平山の生きざまはマインドフルネスそのものだった
彼の一日を見ているうちに、私はある言葉を思い出していた。
マインドフルネス。
今この瞬間だけに意識を向け、
評価や思考を手放し、
目の前の行為そのものに身を置く在り方。
その平山のライフスタイルそのものが、
マインドフルネスだということがストンと腑に落ちる。
トイレを磨く手つき。
植物にいとおしそうに、且つ丁寧に霧吹きで水をやる仕草。
カセットテープでオールドスクールを聴きながら運転する仕事の行き返り。
そこには、
「もっと何者かにならなければ」という焦りも、
「うまく生きなければ」という計算もない。
ただ、今ここに在るということ。一瞬一瞬を大切に生きる。
それを、生活の中で静かに体現しているように感じられました。
姪・ニコとの対比が浮かび上がらせるもの
物語の途中、家出して突然現れる姪のニコ。
不安定で、行き場のないその姿は、
若さ特有の危うさを強く感じさせる。
先の見えない不安。
自分の居場所がわからない感覚。
それは若者だけのものではなく、
大人になっても多くの人が抱え続けている感覚でもある。
「ずっと、これ(清掃員)やってるの?」とニコが平山に聞くシーンでは、
「今度は今度、今は今。」
「この世界は、ほんとはたくさんの世界がある。つながっているようにみえても、つながっていない世界がある。」と抽象的な言い回しをする。
この台詞、深く刺さる人には刺さるのではないでしょうか。
ラストシーンで腑に落ちたこと
ニーナ・シモンの「Feeling Good」が流れるロングショットの中で、
車を運転する平山の表情だけが長く映し出される。
楽しそうにも見える。
苦しそうにも見える。
泣いているようにも、笑っているようにも見える。
そのどれとも言い切れない曖昧な表情が、
人生そのもののように感じられました。
人生は、ずっと穏やかでも、苦しみばかりでも、幸せ一色でもない。
それでも、移り行く時間の中、今この瞬間を生きている限り、
人生は確かに続いていく。
映画『PERFECT DAYS』が伝える完璧な日々とは。
それはきっと、今日を生きるということの尊さなのでしょうね。
2000年代初頭には、丁寧な暮らしなどという言葉がトレンドだったこともありましたが、
「丁寧に生きる」とは誰にも承認されずとも、
自分のありのままを受け入れ、生活を慈しみ大切にすることなのかもしれませんね。
長いこと、こういったタイプの作品に触れることがなかったのもあって、
気づいたらぽろぽろと涙を流していました…。
素晴らしい作品でしたので、興味が湧いた方はぜひ見てみてください。

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